ドイツ語には「非現実話法」というカテゴリーがあります。
英語を使う人にはピンとくる用法かもしれませんが、私は最初に非現実話法を習った時は
ピンときませんでした。
「これから言うことが現実に起こる事かそうでないかなんて、今まで意識して話したことなかった!」
「こんなこと考える必要ある???」
と思ってしまったのです。
なぜかというと、日本語にこんな区別はないからだと思います。
こんなカテゴリーなくても日本語は言語として成り立っているんだから、ドイツ語でもなくても問題ないじゃん、と思ってしまったのです。
初心者の頃はドイツ語を日本語に当てはめて考える、という言語学習でやってはいけないミスをしていたのです。
できることならそのころの私に「そんな事にこだわったらドイツ語マスターできないよ!」と教えてあげたい気分です。
(ドイツ語ならここは絶対非現実話法を使うところ!)
そんなわけで今回はドイツ語の非現実話法についてです。
とは言っても文法上の難しい話は後半にとっておき、
最初はどちらかというと「知っておくと便利!」という概念的な話です。
ドイツ語の非現実話法
非現実話法を習いたての頃は「なぜこんな文法があるのだろう」と思っていた私ですが、
今では大変便利に使っています。
なんせ、文法上の表現が違うわけですから、この文法を使うか使わないかで、相手の言ってることが実現可能なのか、それともまったく不可能なことを前提に話しているのかすぐわかります。
ですから相づちも打ちやすいし返事もしやすいのです。
実際に相手がリアルに考えて言っているなら真面目に答えますし、非現実話法で話してきたことにはこちらも軽い気持ちで返事をすることができます。
今ではときどき日本語で会話している時「それどっちの意味で言ってる?非現実的、それとも起こり得る事として言ってるの?」と相手に確認したくなることがあるくらいです。
もちろん日本語にはそんな区別ないのですから、まぜて考えてはいけないわけですが・・・
それくらい今では非現実話法を便利に使っています。
ドイツ語の非現実話法と日本語の「(もし)~だったら」の違い
ドイツ語の非現実話法ですが、定義としては「非現実な時に使う」と、ごくシンプルです。
日本語で説明すると「(もし)~だったらxxする(のに)」という訳がピッタリくるでしょうか。
非現実話法の例:
- (もし)私が鳥だったら飛べたのに
- (もし)私があなたの立場だったら A の選択肢を選んだと思うな
- (もし)私が車を持っていたら、一人でそこに行くのに
- (もし)私が学生だったら、英語の勉強だけは一生懸命勉強する
これは非現実なことは簡単に想像がつきます。
非現実話法の例:
- もし私が鳥だったら飛べたのに
- → 現実は私は鳥ではない
- もし私があなたの立場だったら A の選択肢を選んだと思うな
- → 現実は私はあなたではない
- もし私が車を持っていたら、一人でそこに行くのに
- → 現実は私は車を持っていない
- もし私が学生時代だったら、英語の勉強だけは一生懸命する
- → 現実は今は学生ではない
鳥になるのも、他人になるのも、過去に戻るのも不可能で非現実です。
車も、いつかは買うかもしれませんが、今は持っていないという事実があります。
そのような場合、ドイツ語では非現実話法を使います。
実際のところ、このような内容は具体的なので、現在の事実と比べれば、日本語のように文法上のカテゴリーがない言語でも非現実なことだとすぐわかります。
しかし、「思っていること」についてはどうでしょうか。
非現実的それとも現実的?
- もしギャンブルで大儲けしたらいい車を買うんだ
- もしお金がたまったら来年の誕生日は思いっきり高いワインでお祝いする
- もし子供たちが成長したら、長い旅行をしよう
日本語でこう言われたら相手がどのくらい本気で言っているかわかりますか?
シーン1
あるいはこういうパターンも考えられます。
シーン2
競馬は大きなレースは毎回やってるし、オートレースも近場で開催される時は毎回足を運んでいるよ。
情報収集もできる範囲でやってるし。
1年間の予算も決めてコツコツやってたら、実は最近だんだん当たるようになってきたんだよね。
そんなに真剣にやってるなんて全然知らなかったよ~。
それなら本当にそのうちいい車買えるかもしれないね。
日本語だとここまで突っ込んで話を聞いてみないと相手の本気度がわかりません。
冗談で言っていることを本気ととらえて返答してしまったり、逆に本気で言っているのにそれが伝わらなかったり。
相手のジェスチャーや言葉のトーンなどで、今でいう正しく”空気を読む”ことをすればわかるのかもしれませんが、もし相手が外国人だったらなかなか難しいことでしょう。
その点ドイツ語の非現実話法は非常に便利で、日本語のような勘違いが生じません。
話す本人が非現実話法を使えばシーン2の意味、使わなければシーン1の意味になるからです。
本人の意図がはっきりしている分、聞いている方は勘違いすることなく相手が本気で言っているのか現実には起きそうもないことと思って言っているのかがわかるのです。
そう考えると、私たちのように外国語としてドイツ語を習う身にとっては、非現実話法というカテゴリーってありがたいなー、と思えてきます。
ドイツ語の非現実話法で必要なのは【würde, wäre, hätte + 強調 】
非現実話法を使えたら便利なのはわかっていただけたと思います。
それでは実際ドイツ語の非現実話法はどうやって作るのでしょうか。
まずは先ほどの例を使って、ドイツ語の普通の文を作ってみます。
例文: 通常の会話
- もしギャンブルで大儲けしたらいい車を買うんだ
- → Wenn ich mit dem Wette groß gewinne, kaufe ich ein gutes Auto.
- もしお金がたまったら次の誕生日は思いっきり高いワインでお祝いするよ
- → Wenn ich genug Geld spare, feiere ich bei meinem nächsten Geburtstag mit einem besonderen Wein.
- もし子供たちが充分成長したら、長い旅行に行こうよ
- → Wenn unsere Kinder genug aufgewachsen sind, machen wir eine lange Reise.
マーカーで強調した動詞に注目してください。
非現実話法では動詞の部分が変化します。
非現実話法の作り方はこのようになります。
非現実話法の作り方基本:
- まず非現実話法を使わない元の文を考える
- 元の文にsein動詞があったらそこをwäreに変える(語尾は主語に合わせて変化)
- 元の文にhabenがあったらそこをhättenに変える(語尾は主語に合わせて変化)
- 元の文にseinもhabenもない場合はwürden+元の文の動詞を使う(würde … nehmen)
- 過去形の場合はwäre/hätte + 過去分詞 (例: ge+mach+t の形)
それではこのやり方で先ほどの例文を非現実話法にしてみます。
まずは現在形の非現実話法から。
例文: 非現実話法
- もしギャンブルで大儲けしたらいい車を買うんだ
- → Wenn ich mit dem Wette groß gewinnen würde, würde ich ein gutes Auto kaufen.
- もしお金がたまったら次の誕生日は思いっきり高いワインでお祝いするよ
- → Wenn ich genug Geld sparen würde, würde ich bei meinem nächsten Geburtstag mit einem besonderen Wein feiern.
- もし子供たちが充分成長したら、長い旅行に行こうよ
- → Wenn unsere Kinder genug aufgewachsen wären, würden wir eine lange Reise machen.
次は過去の非現実話法の例です。
現在形では元の文で使われる動詞によって非現実話法も【würde/wäre/hätte】に三つにわかれますが、非現実話法の過去の場合は【hätte】の一択です。
思いつく例外は一つ【私があなただったら】とか、【私があなたの立場だったら】のように使う【wenn ich du wäre】【wenn ich in deiner Stelle wäre】くらいでしょうか。
この時は【hätte】ではなく【wäre】を使います。
私があなたになることは過去も未来も時制に関係なく、一生非現実的なせいかもしれません。
いくつかの例で非現実話法の過去と現在を比較してみましょう。
- もし私があなたの立場だったら A の選択肢を選んだと思うな(過去に起きた事に対して)
- → Wenn ich du wäre, hätte ich die Auswahl A genommen
- もし私があなたの立場だったらAの選択肢を選ぶと思う(未来に起こることに対して)
- → Wenn ich du wäre, würde ich die Auswahl A nehmen
- もし私が車を持っていたら、そこに行ったのに(過去に起こったことに対して)
- → Wenn ich ein Auto hätte, wäre ich dort hingefahren
- もし私が車を持っていたら、そこに行くのに(未来に起こることに対して)
- → Wenn ich ein Auto hätte, würde ich dort hinfahren
xxすべきだったのに【hätte machen sollen/müssen/könnten】
応用編として、更に助動詞を使った非現実話法もご紹介します。
過去にやってしまったことを【こうすべきじゃなかったのに】とか【ああしなくちゃいけなかったのに】【あの時ああすればよかったのに】【あの時ああできたのに】などと後悔することはありませんか。
そういう時も非現実話法が使えます。
xxすべき、xxしなくてはいけない、xxできたのに、というのは【sollen/müssen/können +動詞】の組み合わせで作りますが、これが更に過去形、そして非現実話法となると、一体どうやって作ればいのか?
ちょっと難しく思ってしまうかもしれませんが、実は実生活ではよく使うのです。
知っているととっても便利に使えます。
難しく考えないで一つだけ独り言を繰り返して、暗記してしまいましょう。
そうすれば後は好きな時に自由に使えるようになります。
非現実話法過去+助動詞の場合: 作り方
- 動詞の組み合わせは【hätte+動詞+sollen/müssen/könnten】
- müssenは【müssen+動詞=müsste】に言い換えも可能
- 注意!非現実話法の助動詞過去形は通常seinと組み合わせるgehenなどの動詞もwäreではなくhättenと組み合わせる
いくつか例題を挙げておきます。
- Ich hätte es nicht machen sollen.
- →私はそれをすべきじゃなかったのに(実際はやってしまった)
- Ich hätte es tun müssen. (Ich müsste es tun の言い換えも可)
- →私はそれをすべきだったのに(実際はできなかった)
- Ich hätte gehen sollen. (×Ich wäre gehen sollen)※非現実話法助動詞過去用法では通常seinと組み合わせるgehenなどの動詞もwäreではなくhätteと組み合わせるので注意!
- → 私はそこに行くべきだったのに(実際は行けなかった)
- Ich hätte es sagen könnten.
- → 私はそれを言うことができたのに(実際は言えなかった)
・さらに過去未来に関係なく、永久に実現不可能なときにも使えます。
こういう場合よく使われるのは【~ができる】という【können】 の非現実話法形である【könnten】【~ができたのに】です。
- もし私が鳥だったら飛べたのに(私が鳥なら飛べるのに)
- → Wenn ich ein Vogel wäre, könnte ich fliegen
【ドイツ語の非現実話法】まとめ
ドイツ語の非現実話法の使い方、そして作り方がなんとなくわかっていただけたでしょうか。
ここに重要点をもう一度まとめます。
非現実話法の作り方基本: 現在(未来)と過去の場合
- まず非現実話法を使わない元の文を考える
- 元の文にsein動詞があったらそこをwäreに変える(語尾は主語に合わせて変化)
- 元の文にhabenがあったらそこをhättenに変える(語尾は主語に合わせて変化)
- 元の文にseinもhabenもない場合はwürden+元の文の動詞を使う(würde … nehmen)
- 過去形の場合はwäre/hätte + 過去分詞 (例: ge+mach+t の形)
この通常文を非現実話法にしてみる。
例文: 通常の会話
- もしギャンブルで大儲けしたらいい車を買うんだ
- → Wenn ich mit dem Wette groß gewinne, kaufe ich ein gutes Auto.
- もしお金がたまったら次の誕生日は思いっきり高いワインでお祝いするよ
- → Wenn ich genug Geld spare, feiere ich bei meinem nächsten Geburtstag mit einem besonderen Wein.
- もし子供たちが充分成長したら、長い旅行に行こうよ
- → Wenn unsere Kinder genug aufgewachsen sind, machen wir eine lange Reise.
例文: 非現実話法
- もしギャンブルで大儲けしたらいい車を買うんだ
- → Wenn ich mit dem Wette groß gewinnen würde, würde ich ein gutes Auto kaufen.
- もしお金がたまったら次の誕生日は思いっきり高いワインでお祝いするよ
- → Wenn ich genug Geld sparen würde, würde ich bei meinem nächsten Geburtstag mit einem besonderen Wein feiern.
- もし子供たちが充分成長したら、長い旅行に行こうよ
- → Wenn unsere Kinder genug aufgewachsen wären, würden wir eine lange Reise machen.
非現実話法現在と過去の比較
- もし私があなたの立場だったら A の選択肢を選んだと思うな(過去に起きた事に対して)
- → Wenn ich du wäre, hätte ich die Auswahl A genommen
- もし私があなたの立場だったらAの選択肢を選ぶと思う(未来に起こることに対して)
- → Wenn ich du wäre, würde ich die Auswahl A nehmen
- もし私が車を持っていたら、そこに行ったのに(過去に起こったことに対して)
- → Wenn ich ein Auto hätte, wäre ich dort hingefahren
- もし私が車を持っていたら、そこに行くのに(未来に起こることに対して)
- → Wenn ich ein Auto hätte, würde ich dort hinfahren
最後に応用編助動詞を使う非現実話法(過去かずっと非現実的な場合のみ)
非現実話法過去+助動詞 (xxすべきだったのに): 作り方
- 動詞の組み合わせは【hätte+動詞+sollen/müssen/könnten】
- müssenは【müssen+動詞=müsste】に言い換えも可能
- 注意!非現実話法の助動詞過去形は通常seinと組み合わせるgehenなどの動詞もwäreではなくhättenと組み合わせる
非現実話法+助動詞の例文
- Ich hätte es nicht machen sollen.
- →私はそれをすべきじゃなかったのに(実際はやってしまった)
- Ich hätte es tun müssen. (Ich müsste es tun の言い換えも可)
- →私はそれをすべきだったのに(実際はできなかった)
- Ich hätte gehen sollen. (×Ich wäre gehen sollen)※非現実話法助動詞過去用法では通常seinと組み合わせるgehenなどの動詞もwäreではなくhätteと組み合わせるので注意!
- → 私はそこに行くべきだったのに(実際は行けなかった)
- Ich hätte es sagen könnten.
- → 私はそれを言うことができたのに(実際は言えなかった)
- もし私が鳥だったら飛べたのに(私が鳥なら飛べるのに)
- → Wenn ich ein Vogel wäre, könnte ich fliegen
実際自分だったらどんな状況で使うか頭の中でシュミレーションしてみましょう。
具体的なイメージが湧くと、実際の状況でスムーズにこの表現が出てきますよ!
ネイティブの発音とイントネーション
hätte,wäre,würdeの発音ですが、カタカナではなかなか説明しにくいですが、ヘェッテェ、ヴェーレェ、ヴュルデェに近いです。
この時青でマークした真ん中の部分を強調します。
そして”ェ”の発音も口を横に開いてちょっと濁音が混じった感じの、他のドイツ語ではあまり使わない発音になります。
しかも、表情でも結構この部分を強調する様子を見せるので、誰が聞いても100%非現実話法だとわかります。
なので、最初は自分で使うのは難しくても、知っていれば言われたときはよくわかるようになります。
ドイツ人と話すときはぜひ注意して聞いてみて下さい。
おまけ
今は知らないドイツ語の単語が出てくるとすぐインターネットで調べられます。
わからない表現が出てきても、ある程度はインターネットでカバーできます。
それでも、頭の中にしっかり定着させたいとき、手元にある辞書を片手にじっくり例題などを見ながらゆっくり反芻する時間を持つのはとても有効です。
耳も口も目も使って、とにかくいろんな方向から覚えると定着しやすいのです。
ドイツ語を勉強する人は、一冊だけでいいから辞書は持っていた方がいいと思います。
騙されたと思って一回だけ試してみてください。
単語数、例文、使いやすさ、どれをとってもダントツです。
最初にこれ一冊あればその後辞書を買い足す必要はないですよ。
ドイツ語を勉強する人にお薦めの一冊です!
こちらも違う角度から「もし」について説明しています。
非現実話法がよりわかりやすくなりますので、ぜひ読んでみて下さい!