先日ドイツ語の質問を受けました。
会話にドイツ語の”wenn”が出てくると英語の”if”か”when”か考えてしまって返事が遅れてしまいます。
一体どうすればいいのでしょうか。
ドイツ語勉強中さんの言う通り、ドイツ語の”wenn(ヴェン)” は英語の”if/もし”と”when/~する時”の2つの意味を含んだ単語です。
それをどうやって区別すればいいかわからない、というのが質問でした。
もちろん英語との比較も含め、質問にはお答えしました。
ただ、答える際に以下のことを気を付けました。
まず初めに【語学学習の大前提】
ドイツ語勉強中さんの目的は当然ながら【できるだけ早くドイツ語を習得すること】のはず。
そのとっかかりとして「wenn(ヴェン)」の質問が出てきたにすぎない。
だから、if/whenとwennの違いの説明はドイツ語習得に必要な部分だけ最低限で終わらせて、深追いしないように気を付けよう、
深追いする時間があったらドイツ語習得の時間に使った方がいい。
ですからその時私は一通り質問にお答えした後、次のように言いました。
“Wenn”を使いこなせるようになる一番の近道は、【wennをそのままドイツ語で理解する】ことです。
ドイツ語の”wenn”をスムーズに英語の”if”と”when”に区別できてもドイツ語を話せるようにはならないのです。
もちろん、【ドイツ語はドイツ語で考えるべき】と理解しただけですぐ実行できるわけではありません。
その過程で時には英語が助けになることもあるでしょう。
でもはっきり断言します。
言語を他の言語で学ぼうとするとややこしくなるだけです。
なぜかというと、どの言語も単語一つ一つがその土地の文化や歴史と共に発達しているからです。
それらの背景から必要に応じて生まれた単語はその土地の文化や歴史に合う様々な意味を内包しています。
ですから、他言語で本当に1対1で同じ意味を持つ単語は存在しないのです。
例えば「主食」という単語一つをとっても、地域によってお米だったりパンだったり小麦を表したり様々です。
更に、例えば外国では「ライス」一つで表す単語でも日本語だと、お米、飯、おかゆ、チャーハン、等々たくさんの単語で表現します。
更に第一義の意味だけでなく、その単語を比喩的に使ったりする第二義的な意味を含めると単純に「主食」という日本語の単語をそのまま簡単に他言語に当てはめられないのが想像できると思います。
ですから語学学習では基本的に「言語習得はその言語で習うこと」をおすすめするのです。
例外は超初級レベルの場合のみ、
しかし、誰でもいつかどこかで切り替える必要が出てきます。
語学習得している人は100%単一言語で思考していますので、早めに切り替えれができいればそれだけ言語習得の近道になります。
その前提を踏まえ、今回はドイツ語の”Wenn”の使い方をご説明します。
本来ドイツ語の”wenn”はそれ以外の何物でもない
本来ドイツ語の”wenn”はそれ以外の何物でもありません。
日本語の【もし】でもなければ英語の【when】でもありません。
ドイツ語の”wenn”で表現できても日本語の”もし”では表せないものがあったり、
日本語の”もし”で表現できるものが全部ドイツ語の”wenn”で表せるわけでもありません。
ただ、”wennはwennだよ”、と言ってもドイツ語初心者の大人がわかるはずがありません。
この方法で語学を学べるのは、ドイツ語を母国語として何年もかけて習得する赤ん坊だけです。
ですから大人はどうにかして理解できる別の方法を考えます。
1つ目は”wenn”の意味をドイツ語で説明してもらう方法があります。
ただ、説明を理解するためには説明に使われるドイツ語の語彙を知っていなくてはいけません。
語学初心者にはなかなか高いハードルです。
2つ目は、外国語の似ている単語に当てはめる方法です。
ベストではないけど、初心者でも実行が難しくないという点でベターな方法です。
例えば日本人なら、日本語の【もし】や英語の【when/if】を当てはめて大まかにドイツ語の【wenn】の使い方を理解するのです。
ここで大切なのはドイツ語の【wenn】イコール日本語の【もし】ではない、ということです。
イコールではなく、”≒“ ニアイコール(近似値)、つまり100%同じではなく、あくまで似ているだけ、と理解することです。
本当はドイツ語はドイツ語で覚えるのが一番だけど、それができないから仕方なく日本語の【もし】に当てはめて考えているだけです。
【wenn】≒【もし】でしかない、ということを心にとめておきましょう。
100%ピッタリの単語がないから便宜的にお借りしているだけ、です。
そう思ってないと”wenn”と日本語の”もし”が一致しない例を発見してはその違いを追及する、という無駄なことに時間を取られてしまいます。
この袋小路に入ってしまうとなかなか抜けられません。
これは効率よく語学習得したい人が絶対通ってはいけない道です。
語学習得者と語学研究者の違い
違う言語を比較してその差異の追及を楽しむのは【言語学者】であって、【語学習得希望者】ではないのです。
研究者にとっては議論の過程が興味の対象ですが、”言語習得”という結果が欲しい語学学習者にとっては貴重な時間の浪費です。
この手の追及には明確な回答も正解もありません。
【正しい正解も回答もないのに、その過程を楽しみ、自分なりの一人の解釈を見つけることに時間を費やす】
それが言語学者です(主専攻が言語学だった私が言いますが、はまってやっている時は実に楽しいのです)。。。
言語マニアで言語が好きでないとできない仕事です。
語学習得が目的の人がマネしてはいけません。
そもそも語学は生きている人間が使うものですから、日々変化していきます。
ドイツ語という一つの言語をとっても同じ単語でも50年前と今では意味変化が生じます。
ましてやその流動的な単語が偶然にも同じ時に他の言語のある単語とぴったり1対1で対応する偶然があるわけないのです。
つまり、語学習得希望者は、”wenn”と”もし”に違いを見つけてもどうしてなのかは深追いせずに、「あー、これは日本語の”もし”とは違う使い方をするんだな」と思うくらいでいいのです。
【ドイツ語はドイツ語で考える】掘り下げると?
【言語学習は言語変換なしで覚える】のがよさそうだな、というのは何となくわかっていただけたかと思います。
それではもう少し突っ込んで考えてみましょう。
単語が意識を生む
ドイツ語の”wenn”を日本語に変換すると大抵は”もし”と訳すことができます。
既に述べたように実際は100%同じではありませんが、かなりの部分が重なるのでここでは仮に100%同じ意味とします。
ですから「もし日本に来るときは連絡してください」に対する翻訳は”wenn”一つです。
もし日本に来るときは連絡してください。
Bitte kontaktieren Sie mich, wenn Sie nach Japan kommen.
一方、英語だと日本語の”もし”はどのような単語で置き換えられるでしょうか。
もし日本に来るときは連絡してください。
① Please give me a contact when you come to Japan.
(本当に日本に来ることをすでに予定している場合)
② Please give me a contact if you come to Japan.
(日本に来ることをまだ計画していない場合)
そうです。日本語の”もし”は英語では「when (実現の可能性が高い”もし”」と「if (実現の可能性が低い”もし”)」の2つに分かれます。
例文の①も②もどちらも正しい英語で、両方よく使われます。
ただ、その時の状況によって使い分けがされます。
実現の可能性が高い時はwhenで少ない時はifなのです。
日本行きを予定している人に”if”を、逆にまだ予定していない人に”when”を使ってしまうとそれは間違いですし、相手に正しく伝わりません。
ですから、英語を話すときは”If”シチュエーションと”when”シチュエーションを分けて考えないといけません。
分けて考えないとif とwhenどちらを使っていいのかわかりませんし、何より相手にこちらの意図が通じず、誤解を招く可能性もあります。
正しい方を選ばないと言いたいことが伝わらないのですから区別するのは当然です。
しかし、考えてみてください。
日本人が日本語で”もし”を使うときに「これはすでに予定している事かな、それともまだ予定していない事なのかな」と考えるでしょうか。
考えませんよね、ほとんどの人はそんな概念の違いすら思い浮かべないと思います。
日本語を話す時はそれで正解です。
だって、わざわざ区別して考えても結局使う単語は”もし”一つなのですから。
どうせ使う単語が一種類なら、状況を区別して考える必要は全くないのです。
これと全く同じことがドイツ語にも当てはまります。
つまり、ドイツ語の”wenn”を使う時に、「これは計画済みか、それともまだ未計画か」と考える必要はまったくない、ということです。
なぜかって、わざわざ区別しても結局使うのは”when”ひとつなのですから。
シンプルなことです。
英語では2つの違う単語があるから実現可能か不可能か意識しないといけない、なぜなら2つの違う単語があるから。
でも日本語とドイツ語では1つの単語しかないのだから、区別して考える必要はない、まとめるとそういうことです。
通常の言語の生成として、「これを表現したい」という意識が単語が生み出されるケースが多いです。
つまり「意識が単語を作り出す」のです。
しかし、今の例を見るとその逆、つまり「単語が意識を作る」という側面もあります。
英語にはwhen/if の2つがあるからその違いを意識する、日本語とドイツ語には該当する単語が一つしかないから、一つの意味として考える。
“wenn”をわざわざ英語の”if”と”when”の使用状況に分解してまたドイツ語に変換しなおし、どちらの意味で使われているのかわからない、と混乱することがいかに時間の無駄になっているかおわかりいただけたでしょうか。
必要のない英語にする時間、更に2つに分かれている英語のどちらかに当てはめる時間、更にそれをドイツ語に直す時間、何も考えずに最初から”wenn”を使えば済むところを何倍も時間を使っています。
会話では考える時間はほとんどありません。
コンマ何秒かの間に話題が次々と変わっていきます。
そこで頭の中でいちいち違う言語に置き換える暇はないのです。
このやり方をしているうちは、言語をスムーズに話すことはできません。
【ドイツ語はドイツ語で考えるのが一番】と言った意味をおわかりいただけたでしょうか。
もちろん最初はできなくても構いません。
しかし、最終形態として【ドイツ語はドイツ語で考える】が目標である、ということを常に意識して下さい。
意識さえしていれば、ドイツ語と他言語を比べて違いを理解するのに無駄な時間を割く、という間違った勉強方法を取ることは避けられます。
- 他言語に変換しているうちはスムーズに話せない。
これは事実です。
次は言語学習を少し言語学の観点から見ていきましょう。
語学学習で拘るべき基準とは
言語学の基礎課程で学んだことがあります。
【単語】の定義とは何か:
単語とは【それだけで意味を持つ最小限の単位】である。
単語とは音節からできています。
音節の羅列だけでは言葉として意味を成しませんが、ある特定の音が集まって意味を持った時に、そのかたまりは初めて一つの言語のひとつの単語、として言語学上の意味を持つのです。
そして脳は賢いので、言語上意味の差を生まない発音の違いは認識しなくなるのです。
生まれた時はなんでも吸収できる脳ですが、成長に伴っていらない部分を排除して、必要なものだけ残って更に成長するのです。
脳の発達からすると、理に適っています。
しかし、これが時々言語学習の場ではマイナスになることがあります。
例えば大抵の日本人なら経験があると思いますが、日本語ではLとRの発音の違いがありません。
どちらも「ら」という発音に似ていますが、日本語を話していてLとRの音の区別をする必要はありません。
なぜかというと、Rと発音した時とLと発音した時に意味の差がでる単語が存在しないからです。
舌の構想上日本人ももちろんRとLの両方を発音できます。
実際にどちらも発音しているのですが、その違いで意味の差が出てこないので、
脳が同じ音として認識するのです。
さくら、ラッパ、ラジオ、ライオン、ランドセル、ゴリラ、等々「ら」を使う単語はたくさんあります。
しかし日本語でこれを巻き舌の”Rら”と発音しても下を歯の裏につけて”Lら”と発音しても単語の意味に変化が起きないため脳はこの違いを認識しません。
英語ではこうはいきません。
right と light という意味の違う二つの単語があり、rとlの発音を間違うと明らかに違う文ができてしまいます。
そのため脳はRとLの発音の違いを認識するのです。
もう一つ例を挙げます。
韓国語には濁音という概念がありません。
そのため、例えば、KとG、PとB、TとD、など濁音と清音(または破裂音)を言葉の意味を区別する音として認識しないのです。
そのため、Kakkou – Gakkou, Papa-Baba, Taigaku-Daigakuなどが同じに聞こえます。
もちろん韓国では全く問題ありません。
韓国語にはこの違いを認識する単語がないからです。
でも日本語では濁音かそうでないかで意味が違う単語がたくさん存在します。
恰好と学校、パパとばば、退学と大学はそれぞれ意味の違う単語があり、そこを間違うと文の意味が違ってきます。
ですから日本語を習得するためにはこの違いを習得しなくてはいけません。
日本人にとってRとLの発音が難しいこと、韓国人にとってPとBの区別が難しいのはそのような理由からです。
母国語に意味の違いがない発音だから難しい、しかし英語や日本語だとその発音の違い意味が違う単語があるから覚えなくてはいけない。
外国語学習者の発音が決してネイティブのようになれない理由がそこにあります。
母国語で必要な発音以外を排除してしまう”かしこい”脳の働きによって、なかなか後天的に習得しにくい発音ができてしまうからです。
このように自分の母国語が何かによって、後から外国語を習得する時に理解が難しい概念や発音が必ず出てきます。
これは仕方がありません。
そんな時、素早く効率よく外国語を習得するコツは「完璧を追及しない!」と割り切ることです。
完ぺきな発音なんて必要ない、一つの完ぺきを求めるよりたくさんの”そこそこ”を増やしたほうが絶対に効率がいい。
でも”そこそこ”の基準とはどこか?
それは【相手に通じること】です。
相手に通じさえすれば、すこしくらい発音がネイティブと違っても、使い方が間違っていてもいいのです。
だって、言語の目的は相手とコミュニケーションをとること、だからです。
- 言語習得の目的は【コニュ二ケーションを取ること】
- 発音や文法がネイティブと違っても、相手に通じればそれでよし。
- 完ぺきを求めない。ゴールは【相手に通じること】
言語の勉強をしていて迷った時、つまずいたとき、深追いしすぎた時、完ぺきを求めた時、モチベーションを失いそうになった時、、、
【相手に一つでも言いたいことが伝わればそれで大成功!】
という気持ちで気楽に楽しく学んでください。
【ドイツ語をドイツ語で考える】まとめ
ドイツ語をドイツ語で考える重要性を”wenn”を使ってご説明しました。
ここに重要点をまとめます。
語学習得には【ドイツ語はドイツ語で考える】しかない理由
- 他言語で100%同じ意味を持つ単語は存在しない。(言語はその国の歴史と文化の背景によってできるから)
- どうしても他言語の助けを借りる場合、【wenn】≒【もし】でしかない事を肝に銘じる。100%同じではなくあくまでニアイコール。
- 会話中に他の言語に変換する暇はない。
- 他言語との比較は言語学者の仕事、言語学習者にとっては時間の無駄
効率よく言語習得できるコツ:
- 言語習得の目的は【コニュ二ケーションを取ること】と割り切る。
- 発音や文法がネイティブと違っても、相手に通じればそれでよし。
- 完ぺきを求めない。ゴールは【相手に通じること】
おまけ
今は知らないドイツ語の単語が出てくるとすぐインターネットで調べられます。
わからない表現が出てきても、ある程度はインターネットでカバーできます。
それでも、頭の中にしっかり定着させたいとき、手元にある辞書を片手にじっくり例題などを見ながらゆっくり反芻する時間を持つのはとても有効です。
耳も口も目も使って、とにかくいろんな方向から覚えると定着しやすいのです。
ドイツ語を勉強する人は、一冊だけでいいから辞書は持っていた方がいいと思います。
騙されたと思って一回だけ試してみてください。
単語数、例文、使いやすさ、どれをとってもダントツです。
最初にこれ一冊あればその後辞書を買い足す必要はないですよ。
ドイツ語を勉強する人にお薦めの一冊です!
同じくwennを使った非現実話法の使い方。
“vorbeikommen” と”kommen” の違いを説明しています。