ドイツのコロナ状況②【4月~5月】

2020年の4月19日。

今、世界中がコロナ危機と戦っています。

 

ドイツでも3月から4月にかけて劇的に状況が変わりました。

2020年の4月になりました。 ドイツでは夏時間が始まり、本来ならばとてもよい季節です。 しかし今年は思ってもいなかった世界中をパニ...

 

ドイツで4月19日現在確認されているコロナ感染者数はアメリカ・イタリア・スペイン・フランスに次ぎ世界で第5番目の高さです。

しかし、他国が2万人近く、またそれ以上の死者を出しているのに対し、

ドイツの死者は約4500人とそこまで多くはなく、国としてのコロナ対策は比較的成功しているといえます。

 

ドイツに住んでいる日本人として、どうしてドイツのコロナ対策はうまくいっているのか、と聞かれることも度々あります。

 

今回は4月19日現在のドイツコロナ感染者数などのリアルデータ、

ドイツと比較した日本のデータ、

および3月末から4月中旬にかけてのドイツの政策の成果、

ドイツの政策がある程度の成果を見せた理由、

更にこれから5月までのドイツの更なる政策について事実と考察を含めてご紹介します。

 

専門家ではないので、この考えがすべて正しいとは限りません。

しかし、現地に住んでいる者として自分なりの考えをまとめたいと思います。

 

4月19日現在ドイツと日本の感染者データ

4月19日現在のドイツのコロナ感染者数などのデータは以下のようになっています。

世界/ドイツのコロナ感染者データ: 2020年4月19日現在 (Johns Hopkins University)

  • 世界の感染者数:  2,374,141名 (最多アメリカ742,442名)
  • ドイツの感染者数: 144,387名
  • ドイツの死亡者数: 4,547名
  • ドイツの完治者数: 88,000名 (世界最多)

 

一方、日本のデータはこの通りです。

日本のコロナ感染者データ: 2020年4月19日現在 (Jag Japan)

  • 日本の感染者数: 10,753名  
  • 日本の死亡者数: 161名
  • 日本の完治者数(退院者): 1,159名

このデータから日本の感染者数はドイツより断然少ないことがわかります。

もちろん、だからといって、”日本の方が安全”と簡単に言えないのはおわかりかと思います。

大きくいうと、これらの違いがあるからです。

ドイツと日本の背景の違い

4つの違い:

  1. ドイツは日本とは逆に【できるだけ多くの検査をすること】を方針としていること
  2. ドイツでは日々の感染者数がピーク時の約3分の1まで減少、日本は現在日々増加中
  3. 人口当たりのICUベット数がドイツの方が多い
  4. 治癒者数の割合の違い

その意味:

  1. 検査数の分母が少ない、ということは検査しきれていないコロナ感染者がいる可能性が高いということを示します。
  2. 今の数値だけでなく、現時点の状況が感染拡大のピーク前かピーク後かで今後の展望が大きく変わります。もちろんこれからピークを迎える方が危険は高いです。
  3. 現在10万人あたりのICUベット数はドイツで30床、日本5床と言われています。6倍の違いがあります。この数字はもし自分が重症になった時適切な治療を受けられるかどうかに大きな影響を与えます。
  4. 感染者数の数は多くてもドイツではすでに完治した方が約60%、日本は約10%です。見た目の感染者数ほど現在治療中の患者数に差はないのです。

 

次はドイツ政府が3月15日から行ったコロナ対策を順にみていきます。

3月15日発令のドイツのコロナ対策

ドイツは連邦制という性格上、政府が発令した方針をどのように具体化するかは、各州に任されています。

各州によって感染者数も医療状況も違いがありますのでそれぞれが自分の州にふさわしい対策を考えます。

政府の方針に従いつつも各州の対策に多少の違いがあるのはそのためです。

 

例として、ここではドイツで一番日本人が多いデュッセルドルフを含む、NRW州の対策をご紹介します。

3月15日付 政府の要請を受けたNRW州発表のコロナ対策:

  • 16日(月)以降、全ての遊興のための施設(バー、クラブ、ディスコ、カジノ、劇場、映画館、美術館・博物館)並びに風俗施設の閉鎖
  • 17日(火)以降、フィットネス・ジム、プール・浴場施設、サウナの閉鎖。
  • 17日(火)以降、スポーツ団体はじめ全てのスポーツ、レジャー施設における会合、市民大学、音楽教室、その他の公営・民間の教育施設の開講を禁止(※一般の学校・幼稚園の休校・休園はすでに措置済み)。
  • ショッピングセンター・ショッピングモール・家具店・アウトレットへの立ち入りは、どうしても延期できない必需品の購入のためにのみ、厳格な制約の下認められる。
  • 食糧品、現金、衣服、医薬品、その他の日用品店、銀行、商店(特に食品や飼料を販売する店)薬局・ドラッグストアの営業は継続される。
  • 図書館、レストラン、ホテルの営業については、厳格な制約を課される。
  • これらの措置は当面4月19日まで行われる。その後の対応は後日改めて決定される。

※デュッセルドルフ領事館発表からの引用

 

大雑把にまとめるとこのような対策です。

  • 生活必需品の営業は継続
  • 遊興・スポーツ・レジャー・講演禁止(学校はすでに前週より閉鎖)
  • ショッピングモールは制限下で認める
  • レストラン・ホテル等の営業は制限下で認める

 

ここではまだ美/理容店・マッサージ店の営業は認められており、レストラン・ショッピングモールも制限下とはいえ開いていたので、お客さんは減っていたものの【行こうと思った時は行かれる】という感じでした。

私自身も毎週通っていたテニスコートが閉鎖になったくらいで、その他の生活に不自由は感じませんでした。

 

(ちなみにこの時点で【在宅ワーク】の奨励も行われていたと思います。

ドイツ語のオリジナルをもう一度ざっと探したのですが、あまりにも資料が多くて【在宅ワーク】推奨を政府の公式発表から見つけることはできませんでした。

ただ多くの企業がこの時期から在宅ワークを開始し、平日にお昼の飲食店のお客が少なくなり、道行く人も極端に少なくなったのは事実です)

3月18日メルケル首長の演説

15日のコロナ対策発表を受け、その3日後の3月18日にメルケル首相がドイツに住む全市民に向けて演説を行いました。

 

普段メルケル首相が直接ドイツ市民にメッセージを送ることはなく、演説自体が珍しいものでした。

 

私ももちろん聞きましたが、実のところ演説の内容に関しては3月15日の内容を改めて強調したくらいで、新しい政策などの新情報はありませんでした。

そのため一部の人たちにとっては失望した演説になったかもしれません。

 

でも、この演説は我々一市民にとっては大きな意味がありました。

この演説を聞いて私は漠然と「あ、なんか言ってること信用できるかも」

と思ったのです。

 

その時は漠然とそう感じただけでそれほど意識はしていませんでした。

でもその演説が「制限をできるだけ守るようにしよう」という意識に一役買ったのは確かです。

後からわかったことですが、メルケル首相の演説はとても評判がよく、その後のアンケートでも政権の支持率が上昇したそうです。

きっと多くの人が私と同じように感じたのでしょう。

 

なぜ信用できるか、と感じたのは以下の理由からだろうと思います。

メルケル首相の演説が支持された理由:

  • ほとんどメモを見ることなく、自分の言葉で話していた
  • わかりやすいドイツ語で市民一人一人に語り掛けるように話した
  • コロナ対策の目標と、そのために今の政策が必要不可欠であることをはっきり述べた
  • → 目標: 感染のスピードを緩め、医療崩壊を防ぎ、ワクチン開発の時間を稼ぐ
  • → そのためには: 社会生活をできるだけ縮小する
  • 行動制限によって発生する経済問題に対して政府ができる限りの経済支援を行うことを約束した 

結果: ドイツ市民が行動制限を守る気になった

更に

演説の内容以外のポイント:

  • 優先順位が【人命→経済】とはっきりしていてぶれなかった
  • メルケル首相は大枠を述べるにとどまり、具体策の発表や具体化をするのは他の人、と役割がはっきりしていた
  • 経済支援の決定が非常に早く、実行も簡易的な手続きですぐ行われた

これらの点もドイツ政府のコロナ対策に対する信頼度を上げました。

 

3月22日ドイツ政府発表のガイドライン(3月15日発令内容を強化)

3月15日に出された措置は、その後たった1週間で強化されます。

 

3月22日に再び新たなガイドラインが発表されます。

内容は3月15日の発令内容を強化したものです。

 

イタリアやフランスのような外出禁止令が出るのでは、といううわさもありましたが、外出禁止令は出ませんでした。

内容は以下のものです。

3月22日にドイツ政府が発表したガイドラインまとめ:

(1) 同居家族等以外の他人との接触は絶対に必要な最低限とすること。
(2) 公共空間において,他人との距離を必ず最低1,5メートル、可能であれば2メートル以上とること。
(3) 公共空間における滞在は単身かまたは家族以外の1名、または家族の同伴に限り認められる。
(4) 職場への通勤、緊急時ケア(託児,高齢者介護等)買い物・通院・試験や会議等重要な日程、他者の支援、個人によるスポーツ、屋外での新鮮な空気を吸うための運動やその他必要な活動のための外出は,引き続き認められる。
(5) ドイツにおける深刻な状況に鑑み、グループによるパーティーは公共の場所か私的な空間(住居)かを問わず許容されない。秩序局または警察が取り締まり、違反行為には罰則が適用される。
(6) すべての飲食店は閉鎖する。ただし配達サービスや持ち帰り等により、個人が自宅で飲食するための料理の販売は例外。
(7) 理髪業・美容サロン・マッサージ業・タトゥー業など、身体のケアに関わるサービス業は、近距離での身体の接触を避けられない職種であり、本ガイドラインに合致しないためすべて閉鎖する。ただし医療上必要な治療は引き続き認められる。
(8) 人々との接触があり得るすべての現場については、公衆衛生に関する規則を守り、従業員や訪問客に対する効果的な保護措置を実施することが重要である。
(9) 上記の措置の適用期間は最短2週間とする。

※デュッセルドルフ領事館から引用

 

要するに外出禁止の代わりに「強度の接触禁止令」が出されたわけです。

3月15日の制限に加えて強化された3点: 

  1. 同居家族以外との接触は2名まで。外では常に他人と1.5メートル以上の距離をあける事。
  2. 今まで制限付きながら営業が許されていたレストラン、理髪店、マッサージ店の完全閉鎖。
  3. そして違反者には罰金

 

私にとっては前回の「テニス禁止」のに加え、「レストラン閉鎖による昼食難民「語学の交換授業中止」「マッサージ店閉鎖」と仕事以外の全ての日常生活がなくなりました。

 

3月22日に発表されたこのガイドラインは、4月初旬の再度のメルケル首相の演説で4月19日まで延長されました。

 

4月20日/5月4日からの新たな措置 (4月15日発表)

3月22日から4月15日までの間、制限令は比較的守られたと思います。

他人との距離さえ保てば一人でジョギングや散歩に出かけたり、同居家族で公園に行ったりすることは許可されていたのも良かったと思います。

 

新たなコロナ感染者数は毎日増加していたものの、医療崩壊を起こすまではいかず、死者の数も比較的少なく、完治者の数も増え、制限令を出した効果は出てきていました。

 

しかし、ある程度の成果を上げたとはいえ、毎日新しいコロナ感染者数は増加しており、終息には程遠い状態です。

一方3月15日の制限から4月20日まで1か月以上も続けた制限によって、経済的ダメージと市民のストレスも溜まってきています。

 

そんな中で政府がこれからどのような政策が発表するのか注目されていました。

 

4月15日にメルケル首相より、4月20日以降のガイドラインが発表されました。

この演説はライブで行われました。

首相のスピーチから始まって、その後各担当大臣が順にスピーチを行いました。

 

このメルケル首相の演説も素晴らしいものだったと思います。

「我々は出来る限りのことを考えているから市民のみなさんは政府を頼ってほしい」

という言葉、そして真摯な質疑応答に市民を守るという一貫したドイツ政府の意思を感じました。

 

 

ここで発表された新たなガイドラインの内容は以下の通りです。

4月15日のメルケル首相の演説内容まとめ:

  • 制限措置が功を奏し,感染拡大のスピードは緩やかになっているが,成功は途中段階で脆弱なもの。制限緩和は慎重に一歩ずつ行う必要がある。
  • 連邦と州は以下の点につき合意。今後各州が具体的な内容を定める予定。
  • 接触制限等の措置は5月3日まで延長
  • 引き続き他者との距離を取ることが重要。
  • 公共交通機関の利用や買い物に際し,マスクの着用を強く推奨
  • 学校は5月4日以降段階的に再開される。まず5月4日以降,卒業試験や進学試験を控えている(高校や小学校の)最終学年等が再開される。
  • 大規模イベントは少なくとも8月31日まで禁止。
  • 800平方メートル以下の全ての店舗及び自動車・自転車取扱業者,書店は,適切な措置(衛生措置,入場人数規制,待機列の回避及び防護具の使用)を取ることを前提に,再開を認められる。
  • 理髪業は,適切な措置(衛生措置,入場人数規制,待機列の回避及び防護具の使用)を取ることを前提に,5月4日以降営業再開を認める。
  • カフェ,レストラン,バー,デパート,ショッピングモールは引き続き営業できない。
  • 教会,モスク,シナゴーグ及びその他の宗教施設における会合は,引き続き禁止。
  • 市民は,私的な旅行や私的な訪問(親戚の訪問を含む)については,国内外を問わず引き続き行わないよう求められる。
  • 5月4日以降の措置については4月30日に連邦首相と州首相が協議を行い決定する。

※デュッセルドルフ領事館発表より抜粋

 

同日、更にドイツ内務省からもEU内の国境管理・入国制限措置についての延長も発表されました。

ドイツ内務省からのEU域内の国境管理・入国制限措置(一部抜粋):

  • ゼーホーファー連邦内務相は,オーストリア,スイス,フランス,ルクセンブルク,デンマーク,イタリア及びスペインとのEU域内国境において暫定的に導入された国境管理を,更に20日間(2020年5月4日まで)延長することを決定した。これは,感染の連鎖を断ち切ることで,コロナウイルスによる感染の危険性をさらに軽減するものである。
  • また,ゼーホーファー連邦内務相は,欧州委員会が第三国からの入国制限の延長を勧告したことを歓迎した。ドイツは,こうした入国制限を他の欧州諸国と同様に適用する予定である。入国制限は,差し当たり2020年5月15日まで行われる。

※デュッセルドルフ領事館より引用

 

メルケル首相の発表内容を簡単にまとめると以下のようになります。

4月15日の発表内容最重要点:

  • 基本的には3月22日に出した制限を5月3日まで延長する(5月4日から順次再開)
  • 唯一の例外として800㎡以下の店舗は一定の条件下で4月20日からオープンできる

 

つまり3月22日に出された制限令は基本的に5月3日まで延長、5月4日からの緩和政策については後日改めて発表する、という内容です。

3月15日から制限が出されたことを考えると、制限は7週間続くことになります。

 

4月20日から唯一緩和されるのは小規模の店舗のオープンのみです。

しかし、それでも緩和政策に踏み切れたということが大きな前進です。

 

政策がある程度の成果を納められたのはなぜか

世界で5番目に感染者数が多いドイツがそれでも4月20日から緩和政策に踏み切れた。

これはドイツの政策がある程度の成果を納めた、ということだと思います。

 

その要因は一体なんだったのか。

私は以下の点だったと考えます。

  • 政策がわかりやすい
  • 政策に一貫性がある
  • 政党間の違いがなく統一性がある
  • 優先順位がはっきりしている(人命最優先→経済)
  • 政策の目的と必要性をしっかり市民に浸透させる
  • 政府ができるだけの援助をすると約束 → 素早く実践
  • メルケル首相が市民にむけて自分の言葉でしっかりと説明→各自が自分事として考える
  • 基本的な医療体制がしっかりしていた事に加え、更に改良の努力をした(100%健康保険加入義務やICUの数など)
  • 集団感染が起こりそうな高齢者施設や託児所のケアができた

 

世界中の各国がそれぞれ違った状況にいます。

感染者数、医療体制、政治体制、経済的背景すべての国が違う背景を持っているのですから、ドイツで効果があったからといってそのまま政策を真似してもうまくはいかないでしょう。

各国がそれぞれ自分の国に合った方針を決めなくてはいけないのは確かです。

それでも、優先順位・一貫性・統一性・市民への浸透性など普遍的な方針は参考にできる思うのです。

 

ドイツのコロナ対策ももちろんまだ道半ばです。

完全な終息が来るのは「コロナに効く薬が開発されるまで待たなくてはいけない」

そしてそこまでいくには年単位かかる、とも言われています。

 

 

ドイツは今、出口戦略の入り口に立ったところです。

緩和政策によっては逆戻りする可能性もあり、慎重に進まなくてはいけません。

 

でも終わりのない夜はありません。

一人一人が自分にできることをすれば終息はそれだけ早くやってきます。

 

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ハイデルベルク大学修士卒業・ハンブルクの企業で代表を務め、社内ベンチャーで異業種起業をして繁盛店にする。

記事執筆・翻訳通訳・ドイツ語個人レッスン経験あり。

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